AOFUAサマーキャンプ 2023
若尾 海飛
宗教
イスラム教が国教とされるマレーシアでの生活は、無宗教・無信仰者の多い日本での生活とは大きく異なり、興味深いものであった。
アザーン
アザーン(Adhan)は、1日5回行われる礼拝時に街中に流れる呼びかけのことである。1日の初めの回は朝6時で、街中に響き渡るほどの音量でかかる。初めは驚いて目が覚めたが、帰国前にはすでに慣れてしまった。礼拝時にはメッカに向けてお祈りをする。そのため、ホテル室内にはイスラム教徒向けにメッカの方角 を示す矢印と、礼拝時に床に敷く絨毯があった。

ホテル室内の矢印。”KIBLAT”(قِ ْب َلة )はアラビア語で「方角」の意。メッカのカアバの方角を示している。

客室に備え付けられていた絨毯
SDG2
私は、グループディスカッションにおいて SDG Goal 2(Zero Hunger)についてグループメンバーと議論し、最終発表を行った。

グループメンバー。
もう一名、タイからのバーチャルメンバーを合わせて4人でプロジェクトに取り組んだ。
SDG2では、飢餓をなくし誰もが食料と栄養を十分に手に入れられるようになることを目標に、地球環境への影響が少ない農業を推進することを目指している。 我々のグループでは、対象とする地域コミュニティをフィリピンとした。この対象地域に対して、SDG2の実現のために、政府等の組織に頼らず我々自身ができることを議論した。 フィリピンでは、5歳以下の子供の栄養失調による発育不良が問題となっている。 我々は、この原因の一つとして人々(特に子持ちの親)の栄養・食事・農業に関する基本的な知識の不足を挙げた。 これに対して行うアクションとして、対象とするターゲットを区別しながら、下記4つを提案した。
子持ちの親
子持ちの親に対して行えることとして、栄養のある食材とバランスのとれた食事についての教育がある。 十分な栄養を得るためにどのような食材が必要で、どのように組み合わせて摂取すべきかを知らなければ、子供に十分な栄養のある食事を与えることはできない。 我々のグループでは、成長に重要な栄養分であるビタミン・鉄分・カルシウム等を効果的に摂取できる食材をどのように摂取すべきか”The Healthy Eating Pyramidi”を用いて説明することを提案した。 これによって子供たちの食生活が改善されれば、子供の栄養失調を防止できると考えられる。
学校
学校においては、フードロスを削減するための食べ物に対する考え方を子供たち自身に直接教えることを提案した。 日本における「もったいない」という考え方を、絵本を利用して子供たちを楽しませながら広めることで、持続的にフードロスの少ないコミュニティの実現が可能になると考えられる。
農家
フィリピンでは、災害によって作物が損害を受けることが度々問題となっている。これによって食物不足となることを防ぐため、過酷な気候に強い品種の種を提供することや気候に左右されない農業技術の提供を提案した。 また、現地では化学肥料の過剰な使用等に伴う土壌の汚染による持続不可能な農業も問題となっている。この対策として、化学肥料に頼らない農業技術の提供を提案した。
一般の人々
農業に従事している人だけではなく、一般の人々が自ら食材を育てる技術を持つことは、持続可能な食材供給のために重要である。この実現のため、水耕栽培・堆肥技術の提供を提案した。
Menu Rahmah – RM5
SDG2に関連して、マレーシア政府が行う取り組みに興味深いものがあった。MenuRahmahとは、物価の高騰による国民の生活への影響を緩和すること、所得によらず全ての国民に最低限の食糧を提供することを目的とした取り組みであるii。 この取り組みでは、5リンギット(約150円)以下で注文できる、最低限の栄養素を含んだ料理を客へ提供するよう国内のレストランに要請する。 Menu Rahmah はご飯、・タンパク質を含むおかず・野菜のおかずを含む必要があり、最低限必要な栄養素を低価格で摂取することができる。 この取り組みには大型チェーンのマクドナルドやバーガーキングなども参加しており、貧困による栄養失調への対策として非常に効果的で素晴らしいものである。
今回の経験を通して、大きく次の3点を学んだ。
- 対象地域の選定が効果的
- 地域の背景調査が大切である
- 相手の意図と自分の理解に相違がないか適宜確認することが大切である
何らかの課題を特定してその解決のために議論をする場では、その対象地域を一つに絞ることが重要である。 普遍的な課題に対する解決法の議論では、具体的な原因や行動を起こす上での制限が明確でないため、抜本的な解決策を打ち出すことは難しい。 対象地域を絞ることで、なぜ問題が発生しているか、どのような解決手段が有効か、自ずと明らかになる。このとき、その地域における背景調査を行うことが重要である。 歴史や地形、気候などの地域ならではの制約についてよく知っていなければ、適切な結論に辿り着くことはできない。また、いま行おうとしている取り組みが本当に求められているものであるのか、現場の声を確かめることも重要である。 これらを踏まえた上で、議論する際には自分の意見が意図した通りにグループメンバーに伝わっているか確認することも大切である。 意思疎通の確認をすることは、理解の相違をなくすために有効だ。そのうえ、相手の理解の仕方を知ることで、考え方を知ることにもつながる。 お互いの意見や考え方を少しずつ確実に提示し合うことができれば、より優れた結論に辿り着くことができるだろう。
私は、大学院を卒業後、海外の多くの地域にビジネスを展開しているアパレル会社に就職する予定だ。今回のAOFUAサマーキャンプでの経験は、海外のある地域に根差したビジネスを動かす上でとても役に立つものだ。 自分の担当する地域での需要を歴史的背景・気候条件などから分析し、チームメンバーと意見を交換しながら現地のお客様の生きた意見にも耳を傾け、より良いビジネスを築ける人材になりたいと考えている。
参考文献
Department of Nutrition (n.d.). Healthy Eating Pyramid. Harvard School of Public Health. https://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/healthy-eating-pyramid/より, 2023 年 7 月 30 日閲覧
ii Kura-kura NEWS. (2023) 2023/2/17 最近流行りの Rahmah メニューって何でしょう?. https://note.com/kurakuranet/n/needf11d85e52 より. 2023 年 7 月 30 日閲覧